Notice
西暦1年の前年は西暦何年?
育志館大学受験科ウィンゲート講師の一色です。
早速ですが表題の答えは紀元前1年です。
西暦0年は存在しないので要注意ですよ。
なぜそんなことになっているのか、これにはゼロにまつわる面白い歴史が関わっているのです。
位取り記数法のための記号としてのゼロはインドで5~6世紀頃に使われ始めました。
例えば103の真ん中に使われているような記号です。
それに対し「1より1小さい数」としてのゼロはより新しい概念で、一般に知られている中では7世紀インドのブラーマグプタが発明者として知られています。
ちょうど玄奘がインドを訪れた頃ですね。
このゼロの概念は数学にとってとても便利なものなので、アラブにはすぐ普及しました。
遅くとも9世紀のアル・フワーリズミーの時代には一般的だったようです。
ヨーロッパには、13世紀になってフィボナッチがアル・フワーリズミーの書物を翻訳することで、紹介されました。
ところが、その後のヨーロッパではゼロの概念があまり普及しませんでした。
当時は十字軍運動が盛んな頃で、アラブの文化は異端で悪魔のようだという不信感があったためです。
「ゼロは負の数への入り口だから借金を推奨することになる」なんていうとんでも理論でゼロの使用を禁止する法律ができたことまでありました。
そしてもう一つ、キリスト教世界における学問の特殊事情もありました。
当時の学問といえばギリシャから伝わったアリストテレス哲学のことです。
そもそもローマ以降のヨーロッパでは、為政者や知識人達は基本的にキリスト教を信仰していました。
そこで彼らは、アリストテレス哲学とキリスト教を融合させながら学問を発展させていったのです。
そうなるとアリストテレス哲学はキリスト教と表裏一体です。
アリストテレス哲学は教会の権威によって守られ、アリストテレスの説に反する考えは異端や悪魔信仰のレッテルを張られてしまうようになってしまったのです。
アリストテレスの科学は定量的ではなく、定性的なものでした。
今の科学のように温度や硬さなどを数値で示すことはしません。
熱さと冷たさのように性質で議論していたのです。
さらにアリストテレスは「自然は真空を嫌う」という原則を立てています。
自然現象は真空が存在しないように振舞うという意味です。
例えば私たちの周りは空気で満たされていますが、一か所の空気を取り除こうと手で払っても、すぐに周りの空気で満たされて真空をつくることはできません。
確かに直観に反しない理論ですね。
そこには神の意志が働いているというのが当時の主流な解釈でした。
定量的な議論をしないのでゼロが必要ないだけでなく、何かをゼロと表現したとたんに神の意志を否定したことになってしまう。
そのためヨーロッパでは長い間ゼロの使用は避けられてきたのです。
実際にゼロが認められ始めたのは17世紀のデカルトやガリレオ以降のことです。
デカルト座標では原点をゼロと表記する必要がありますよね。
デカルト座標の発明はゼロの市民権を認めさせた発明でもあったのです。
さらにガリレオは、空気に重さがあることを実験で示し、真空の存在を予言しました。
そして彼の死後弟子のトリチェリによって、ついに人類は初めて人工的に真空を作り出すことに成功したのです。
これによりアリストテレスの世界観は権威を失いました。
そして18世紀のニュートンの頃になってようやく、ゼロを当たり前に使える世の中になったのです。
それくらいヨーロッパではアリストテレスの世界観から脱却するのは難しかったということですね。
ひどいときには反アリストテレス的な説を唱える学者は火あぶりにされることまであったくらいです。
さて表題の話に戻りますが、いま私たちが使っている西暦はグレゴリオ暦といって、1582年にローマ教皇グレゴリウス13世が定めた暦です。
よく西暦に0年がないのは当時ゼロの概念がまだなかったからだと言われますが、そんな単純な話ではないことが分かりますよね。
当時は若き日のガリレオがピサで研究を始めている頃。
ゼロの概念はすでにヨーロッパの学者たちには十分知られていたのです。
しかしその有用性に気づいていた人はほとんどいませんし、いても表に出して発表することはまずありませんでした。
そんな教会の圧力とガリレオたちの戦いはこの後の話になりますが、そんな時代にローマ教皇が定める暦に0年がないのは当然のことで、知識がなかったという話ではないのです。
育志館大学受験科ウィンゲートでは徹底的に学習計画が管理された映像授業とベテラン講師の対面授業だからこそ、「わかる」「できる」を実感していただけます。10月の学習相談会は毎週土曜日17:00~18:30です。
また無料体験授業も実施しております。予約制となっておりますので事前にお電話にてご予約をお願いいたします。
高校生になって、塾に通っていない方などはお気軽にお問合せください。
育志館大学受験科ウィンゲート 0774-66-2652
各教室<スクール>のご案内