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父なる単位「キログラム」

育志館大学受験科ウィンゲート講師の一色です。

 

前回のブログで書いた通り、1799年にメートル原器が作られ、メートルが定義されました。

それと同時に、実はキログラムについても定義されて、原器も作られていました。

今回はそんなメートルと「夫婦」のような関係にあるキログラムのお話です。

 

キログラムが定義される以前、質量には「ポンド」など様々な単位が使われてきました。

これらの単位は、元は重さを表す単位です。

重さは直感的に観測できますが、質量は直接観測できるものではないので、ニュートン以前の単位としては当然のことでしょう。

一方キログラムは最初から質量の単位です。重さの単位ではありません。

しかし、この違いが重要な意味を持つのは早くてもニュートン以降。

ましてや計量的に意味を持つのは、重さの測定精度が十分大きくなった後のことです。

そのため、面白いことにこれまで重さの単位として使われてきた「ポンド」などの単位を、そのまま質量の単位として使い続けることになったのです。

 

この質量に新しい単位を付けようという動きが、やはりフランス革命中に起こります。

実はタレーラン以前から議論はなされていて、1Lの水の質量を1graveと定義することが提案されました。

graveはgravityが由来です。

イングランドでは絶対に提案されなさそうな名前ですが、フランス語では「重大な」「重々しい」というような意味の形容詞でもあります。

当時の質量のイメージが重力質量に引っ張られている感じがしますね。

 

しかし革命政府ができて、単位の策定の主導権をタレーランが握ると、なぜかgraveは廃案になります。

そして新たにその1,000分の1を単位とするgramme(グラム)が提案されました。

こちらはギリシャ語のgrammaがラテン語に導入されたのが由来です。

ギリシャ語のgrammaは「書く、文字、図」といった意味の単語で、graphなどの語源でもあります。

それが4世紀になるとラテン語で24分の1オンスの重さを表す単位として使われるようになりました。

今の単位で約1.14グラムに相当します。これを復活させたわけです。

 

graveを廃案にした理由は諸説あるようで、graveでは単位当たりの量が大きすぎるためというのが有力なようです。

ただ、それはミリなどの補助単位を使えばいいだけですし、結局キログラムを基本単位としたことと矛盾します。

ルイ16世の治世で決まったことを踏襲することに対して、政治的な反発があったのではないかと邪推してしまいます。

 

いずれにせよ革命政府は新たな質量の単位としてグラムを使用することを決め、その定義のためキログラム原器を作成しました。

グラム原器ではなくキログラム原器なのは、グラム原器だと小さすぎて正確に作れなかったためと言われています。

そのため、単位の定義としては異例ですが、1キログラムをまず定義し、1グラムは1キログラムの1,000分の1と定義することになったのです。

定義される単位に補助単位が使われているのにはやはり違和感がありますが、すでに定着しきってしまった単位なので、なかなか変えるまでには至っていません。

 

そんなわけで、何となくごり押しのような感じで決められたキログラムという単位ですが、国際単位系の中では最後まで人工物によって定義されていた単位でもあります。

2019年ようやくキログラムがプランク定数を基に定義されることになり、キログラム原器は役目を終えることになります。

メートルと共に生まれ、共に世界の単位の統一に寄与したキログラムは、国際単位系の父のような存在なのです。

 

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