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人類最大の不運「アンペア」

育志館大学受験科ウィンゲート講師の一色です。

 

今回は電磁気学の基本単位、「アンペア」について見ていきましょう。

琥珀がもみ殻のような軽いものを引き寄せる現象は、かなり古い時代から知られていました。

これはもちろん静電気力によるものですが、当時は謎の作用でした。

この琥珀の性質の研究から徐々に電磁気学ができていくのです。

 

16世紀、イングランドのウィリアム・ギルバートは琥珀以外にも似たような性質があることを指摘し、その性質を琥珀のギリシャ語である「elektron」に因んで「electricus」と名付けました。

静電気力「electric force」という概念の始まりです。

その後も様々な科学者たちの実験によって電磁気学は発展していきます。

18世紀になると、ベンジャミン・フランクリンが電荷の概念を、その後アレッサンドロ・ボルタが電位の概念を確立させ、さらにシャルル・ド・クーロンが静電気力が距離の2乗に反比例することを示しました。

電荷の単位である「クーロン」はもちろんこのクーロンに因んでいます。

そして19世紀に入って、シメオン・ドニ・ポアソンがこれまでの実験成果を定式化し、静電気学はほぼ完成したのです。

 

では動電気、つまり電流はどうでしょうか。

そもそも電気を使った実験と言えば、静電気を摩擦によって蓄えて使うか、雷を利用するしかありませんでした。

前者では少量の電気を一瞬だけしか使えませんし、後者では実験できるタイミングが限られてしまいます。

そこで晴れた日でも持続的に電気の実験ができる方法を、科学者たちは求めていました。

その答えを示したのが、先ほども登場したボルタです。

彼が電池を発明したことで、初めて電気を持続的な電流として取り出すことができるようになりました。

電流の研究はここから始まるのです。

 

電流の実験が盛んにおこなわれるようになると、電流には磁気的な力があることがすぐに知られるようになりました。

この電流と磁力の関係をまとめたのが、アンドレ・マリ・アンペールです。

今回のテーマである「アンペア」は彼に因んで付けられました。

ちなみに、電流の向きは電子が移動する向きと逆になる、という事実は初学者がよく混乱する話ですよね。

そのせいで電子の電荷をマイナスとして考えなければならないのも、話がややこしくなる原因になります。

これは電子の存在が知られる前に電流の向きが定義されたためで、当時はどちら向きに定義してもよかったのですが、アンペールが「たまたま」その向きに定義してしまったために起きてしまったのです。

人類史上最大の不運と言えるでしょう。

 

その後の電磁気学の発展については割愛しますが、ここまでで非常に重要な単位「クーロン(C)」と「アンペア(A)」が登場しました。

最初期の電流の単位は、後に「アブアンペア(abA)」と名づけられるのですが、「真空中に1センチメートルの間隔で同じ大きさの電流が流れているとき、両者の間に働く力が1センチメートルにつき20μNであるときの電流」という定義でした。

これは1abA=10Aに相当します。

ここでは長さの単位としてmではなくcmが使われていますね。

これは、電磁気の実験は狭い範囲で軽い物体について行うことが多いので、「m、kg、sec」の単位系(MKS単位系)ではなく「cm、g、sec」の単位系(CGS単位系)がよく使われていたためです。

これをMKS単位系に組み込む際に、よりなじみやすいようにアブアンペアの10分の1として「アンペア」が定義されました。これをMKSA単位系と言います。

アブアンペアという単位はこの時に後から付けられたものなのです。

 

さて、この「アンペア」の定義ですが、元々は2本の導線に電流を流した時の導線間の相互作用によって定義されていました。

これはアブアンペアの定義に近いものですね。

その定義が2019年に改訂され、今では1秒間に1Cの電荷が通過する電流の大きさで定義されています。

1Cは電気素量によって定義できるので、電気素量を決めることで1Aも定義できるというのが今の仕組みなのです。

 

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