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ギャンブルに期待値は有効か

育志館大学受験科ウィンゲート講師の一色です。

 

言うまでもないことですが、日本でギャンブルは公営の物以外禁止されています。

そして大抵の公営ギャンブルは20歳以上しか参加できません。

しかし、思考実験であれば誰でも参加できます。

今回は未成年でも安心して参加できる架空ギャンブルを用意してみました。

 

コイントスの結果次第で賞金がもらえる単純なゲームです。

もちろんコイントスの結果は表裏同等で、確率はそれぞれ1/2です。

ただ賞金の決め方が少し特殊で、コイントスは表が出るまで投げ続け、表が初めて出た時点で賞金が確定し、ゲームが終了します。

1回目に表が出たら、賞金は1円。

2回目に表が出たら、賞金は2円。

3回目に表が出たら、賞金は4円と、倍々に増えていき、

n回目に表が出たら、賞金は(n-1)の2乗で計算します。

このゲーム、あなたなら参加費がいくらなら参加しますか?

 

こういう時に役立つのが、確率の期待値という概念です。

期待値は1回あたりどれくらいの結果が期待できるのかの平均値のことです。

例えば年末ジャンボ宝くじの期待値は、大体150円程度。

つまり1枚(300円)あたり平均すると150円くらい返ってきそうなゲームと言えます。

当然ですが、購入金額より期待値が上回ることはありません。そんなことをしたら販売者が儲からないですよね。購入金額と期待値の割合を比較して、自分の運なら儲かりそうだと思えば購入するといいでしょう。

ただし大数の法則と言って、買えば買うほど実際の賞金が期待値に近づいていくので、買いすぎには気をつけてくださいね。

 

さて、本題のゲームについても期待値を考えてみましょう。

この場合の期待値は、

 

½*1+¼*2+⅛*4+・・・

 

と計算していくことになるのですが、その計算結果が実は∞に拡散します。

つまりゲームに参加すればするほど、賞金は無限大に近づいていくということです。

こんなにお得なゲームありませんよね。参加費がたとえ100万円だったとしても期待値より安いわけですから、絶対に参加すべきです。

 

本当にそうでしょうか。

試しにこのゲームを再現するプログラムを組んで実際に何度か繰り返してみました。

すると、賞金は殆どが1桁、100円を超えるのが100回に1回くらいという結果になりました。さあ、このゲームに100万円の価値があるでしょうか。

 

これは18世紀前半にベルヌーイが発表した、サンクトペテルブルクのパラドックスという有名な話です。

数学的には100万円以上の価値があるはずなのに、感覚的にはそうではないという意味でパラドックスなんですね。

なぜこんなことになるのか色々な説明の仕方がありますが、重要なのは何回このゲームに参加できるのかを考えていないことです。

普通ギャンブルに投資できる資金には上限があるはずです。

このゲームの場合、期待値に近い賞金を獲得するには天文学的な回数をこなさなければいけません。数学的にはいつか参加費を回収できるはずですが、実際にはその前に資金が尽きてしまうのです。

先ほどと同様のプログラムで、参加費を1回1,000円とし、賞金が参加費の合計を上回るまでにかかる回数を実際に計測してみました。

すると、1,000回計測した平均がおよそ200万回。

つまり20億円以上の資金がないと参加費を回収することすら期待できないということになってしまいました。

たとえそれだけのお金があったとしても、何百万回も繰り返すなんて現実的ではないですよね。

期待値だけではギャンブルは語れないということがお分かりいただけたでしょうか。

 

このように数学的には正しそうなことでも、現実に当てはめると明らかにおかしいことはよくあります。数学は現実の世界を理解するのにとても便利な手法ですが、実際の世界ははるかに多くの要素が複雑に絡み合っているので注意が必要です。そして、そんな複雑な世界に対して終わりなき戦いを続けるのが学問の面白さでもあるのです。

 

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